新型コロナウイルス(COVID-19)
ー眼科診療の現場で知っておきたいことー
東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野
附属病院感染免疫内科
四柳宏
第44回日本角膜学会総会緊急シンポジウム
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus‐china‐map/ 1/1
COVID-19 最新の状況
日本の疫学(厚生労働省ウエブサイトから2/25時点)
国内発生例の9%は無症状である。
国内感染者のうち転帰の判明した有症状者90例中15例は重症・死亡例である。
1.国内の状況について
2月25日12:00現在、139例の患者、16例の無症状病原体保有者、陽性確定例1例が確認されている。
【内訳】
・患者139例(国内事例128例、チャーター便帰国者事例11例)
・無症状病原体保有者16例(国内事例12例、チャーター便帰国者事例4例)
・陽性確定例1例(※症状有無確認中の方)
うち日本国籍121名、調査中18名である。
※1 うち日本国籍106名
※2 付添1名を含む。
発症例の診断までの経過
潜伏期は4日以上
初発症状は風邪の症状
感染症専門の医師でも診断が難しい。
初発から3日。改善なく新しい症状
この段階でもインフルエンザ・他の感染症
をまずは考えている。
発熱が1週間続いている。
肺炎が認められる。
この段階で初めて診断がついている。
2020/2/16 Asahi.comの記事より
https://www.nikkei.com/news/printarticle/?
R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO55709990X10C20A2I00000
臨床的特徴(サマリー)
ウイルス排出量の時間的推移
軽症者のピークは発症後数日間。無症状者に関しては十
分なデータがない。
重症者はウイルス排除が遅れる(とされている)。
鼻腔スワブ(左)は咽頭スワブ(右)より高レベルのウイルスが検出される。
ウイルス量には個人差が大きいが発症5〜6日間のウイルス量は多い。
Phylogenetic analysis and homology modelling of the receptorbinding
domain of the 2019-nCoV, SARS-CoV, and MERS-CoV
SARS-CoV-2(2019-nCoV)とSARSCoV
は同じLineageに属するウイルスで
ある。
ともにACE-2をレセプターとして用いると
されている。
Phylogenetic analysis and homology modelling of the receptorbinding
domain of the 2019-nCoV, SARS-CoV, and MERS-CoV
SARS-CoV-2(2019-nCoV)とSARSCoV
は同じLineageに属するウイルスで
ある。
ともにACE-2をレセプターとして用いると
されている。
多くの国際機関から毎日レポートが出されている。
WHOはジュネーブ時間の午前10時に前日の新規発生状
況を公表している。
すでに1300件以上の論文が世界中から公表されており、
WHOはそのすべてのサマリーを公表している。
厚生労働省も毎日新規発生例を経過とともに報告している。
2/25時点での世界の感染者は合計34ヶ国・80239例。
うち中国が77780例
24時間での新規発生は908例(中国以外は390例)。
死亡者は2700例(中国以外は34例)。
https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO55709990X10C20A2I00000
メディア情報などに基づく
抗ウイルス治療
基本的には支持療法である。
SARS, MERSでの使用経験に基づき、抗HIV薬である
Lopinavir/Ritonavir(商品名カレトラ)が用いられている。
日本発の薬であるFavipiravir (商品名アビガン)は、多くのウ
イルスに対して活性を有するRNA-dependent RNA
polymerase阻害薬である。今後臨床試験に進むことが期待さ
れる。
Remdesivir(Adenosine analogue)はin vitroで低濃度での有効
性が示されており、MER-CoV感染rhesus macaquesでの有効
性が報告された(https://www.pnas.org/content/early/2020/02/12/1922083117)。
WHOは最も有望な薬と位置付けている。中国で大規模臨床試
験が開始された。
飛沫感染経路
帰国者による持ち込み。
クルーズ船・屋形船・タクシーなどの閉鎖空間での広がり。
病院での広がり(和歌山・東京)。
接触感染経路
患者に接触した後手洗いをせずに自分の鼻・口を触れる
ことによる搬送者・医療従事者の感染(推定)
同様の感染経路で他人に伝播する可能性。
多様な感染経路
感染経路を同定できない症例が地方で出始めたことの意味は重い。
2020. 1.23
📰ニュースSouth China Morning Post. by Yan A.
📰ニュースBeijing News by Dai X
武漢へCOVID-19アウトブレーク研究にいった肺炎研究専門家(医師)が北京に戻り、
COVID検査陽性となった。発熱・鼻水・咳出現の数時間前から左結膜炎発症。
医師本人が「N95マスク着用し十分な防備をしていたため、おそらく眼を通して感染した」と
の発言。
2020. 1.24 Cheng-wei Lu et al. Lancet (Corresnpondence to Hung C.‘s Lancet paper)
COVID-19患者の結膜擦過を調べるべきであり、結膜は無視できないと意見
Hung C. 2020:395:497-506 Lancet
Clinical features of patients infected with 2019
novel coronavirus in Wuhan, China
2020 Zhou Y. et al. medRxiv NCP(novel coronavirus pneumonia)
3例/63例結膜スワブ陽性、しかし結膜所見陰性
1例/63例結膜炎症状、しかし結膜スワブ陰性
➡ 結膜由来の伝播はこれらのデータでは支持されていない。
後ろ向き研究・スモールサイズ・一回のみ検査のため偽陰性の可能性も。
引き続きの検討が必要
今回のNCP(novel coronavirus pneumonia)について
入院11例中のうち結膜充血があるのは
この1例のみである。
2020 Seah I. et al. Eye
眼科診療における患者との医師との距離が問題で、涙液による伝播が示唆されて
いる。
その根拠
2004 Loon SC et al. BJO
3例/36例の涙液PCRでSARS-CoV陽性(発熱後3,4,9日目サンプル)
うち1例は便では陰性
3例とも早い時期に涙液陽性
涙は何度でも採取可能
➡以上から、涙液PCRは早期の診断に有用との結論
但し、涙液の回収が難しいため量的な問題は残る。
また1回のみの検査のため偽陰性の可能性。
2004 Leong HN et al. Emerg Infec. Dis
64症例で結膜サンプル126採取(ほとんどが発病6-8週)するもすべて陰
性。気道・尿もすべて陰性。
便のみ陽性。
2004 Chan WM. et al. BJO 88:968-977
17確定症例、3疑診症例では涙液PCRはすべて陰性診断には有用でないと
の結論
2010 Raboud J. et al. ProSone 5:e10717
GEE ロジステイック解析にて、防備されていない眼と分泌物との接触はリスク大
過去のSARS-CoVについて
上記の注意喚起に加え、現在までわかってきたことを考えると、以下の対応が考
えられる。
1. 受付で以下の確認を行う。
発熱・感冒様症状(特に咳・咽頭痛)の有無。
結膜充血の有無。
発熱・感冒様症状(特に咳・咽頭痛)がある場合は原則として院内での診察を
行わない。
この場合必要があれば投薬を行い、自宅での安静を勧める。もし症状が4日
(免疫寛容を伴う人は2日)続いたり急速な症状の進行があれば帰国者・接
触者相談センターに速やかに相談するように指示する。
2. 発熱・感冒様症状がない場合でも患者さんには手指消毒をして頂く。
3. 患者さんが感染している可能性が低いと考えられる場合でも医師は手袋・
サージカルマスクをして診察を行う。サージカルマスクは飛沫・飛沫核によっ
て汚染されたと考えられる場合は交換する。この時には手袋を外し、マスク
の紐の部分を持ち廃棄すること。手指消毒を必ず行うこと。
感染の危険性をできるだけ避けるために
帰宅時にきちんと手洗いをしてください。
体液で汚れている可能性のある場所(不特定多数の人が接触する
場所)に触った後にも手洗いを行ってください。
人混みに出る際にはマスクの着用も効果的です。
人混みへの外出はできるだけ避けてください。
もしかして感染したかも?と思ったら
37.5℃以上の発熱がある場合は自宅待機が原則です。1−2日以
内に解熱し、そのほかの症状がない場合は出勤可能です。
4日しても解熱・感冒様症状が収まらない場合、自治体の設置した
”帰国者・接触者相談センター”に相談してください。
判断に迷う場合はその施設の感染対策チーム(ICT)にご相談ください。
先生方・医療スタッフへのお願いします。