三宮再開発が本格化。いよいよ神戸の都心が新しく生まれ変わる
「都心・三宮再整備KOBE VISION」
関西の三大都市といえば、「大阪」「神戸」「京都」。直近10年のそれぞれの都市の変化を振り返れば、大阪はJR大阪駅北側の「グランフロント大阪」をはじめとする都心での大規模再開発が進み、街の姿は一変している。京都は拡大するインバウンドを追い風に観光客が増加し、次々と高級ホテルがオープンするなど、さらに多くの人が集まる都市へと進化している。このように2つの都市は何かと話題を提供しているが、神戸に関してはあまり話題に上がることもなく、大きな変化を感じることもなかったのではないだろうか。
大阪市の人口が増加する一方、神戸市の人口は減少傾向にあり、東京都の特別区部を除く政令指定都市の人口順位においても、2015年に福岡市に抜かれ5位から6位へ、そして2020年には川崎市に抜かれ7位となっている。同じ港町として対比される横浜市が再開発で大きく発展し、人口が増加していることを考えると、出遅れ感は否めない。
しかしながら、神戸市も2015年に神戸の都心の未来の姿「都心・三宮再整備 KOBE VISION」をとりまとめ、三宮周辺地区の「再整備基本構想」を策定するなど、街の再開発に取り組んでいる。官民で取り組む「都心・三宮再整備」では、30年後までに約150棟のビルを建て替え、新たな都市空間を創造する予定だ。
実際2021年4月には、高さ120m、地上29階の複合商業ビル「神戸三宮阪急ビル」や「さんきたアモーレ広場」が開業。2022年7月には、ビジネス街に位置する磯上公園内に「神戸市立磯上体育館」がオープンするなど、ここにきてやっと街の開発が具体的な形となって見え始めてきた。今まで水面下で進んできたさまざまな再整備計画が、次々と形になっていくフェーズに入ったのである。
神戸の都心未来の姿である「KOBE VISION」は「住み続けたくなるまち」「訪れたくなるまち」、そして、「経済的に発展するまち」を目指していて、将来の姿を現す3つの柱と、そのために都心に必要な8つの軸が示されている。
3つの柱とは「心地よいデザイン」「出合い、イノベーション、そして文化」「しなやかで強いインフラ」。そして8つの軸は「景観」「にぎわい」「生活・居住」「産業」「観光・文化」「防災」「環境・エネルギー」「交通」となっている。
特に、神戸の玄関口ともいえる三宮周辺地区のダイナミックな再整備は、神戸の街や経済全体を活性化させるうえで重要になる。開発が集中する三宮エリアの現状と、今後の開発計画を通して神戸の未来の姿をイメージしてみよう。
神戸の玄関口として再整備する「三宮クロススクエア」
三宮エリアには、JR「三ノ宮」駅、阪急「神戸三宮」駅、阪神「神戸三宮」駅、神戸市営地下鉄西神・山手線「三宮」駅、ポートライナー「三宮」駅、神戸市営地下鉄海岸線「三宮・花時計」駅の6つの駅が集まっている。一見便利そうであるが、実は微妙に離れていて、乗り換えのための動線も複雑なので、慣れていない人は迷うこともあるだろう。また、駅前も広い空間が確保されておらず、無秩序な印象を抱かせ、神戸の玄関口というわりには少しお粗末な感じがしていた。
そこで、玄関口にふさわしいように、三宮交差点で東西南北にクロスする道路を「三宮クロススクエア」と位置づけ、「人と公共交通優先の空間」を創出し、「えき」と「まち」をつなげ、景観に配慮しながらにぎわいを生み出す場所にすることになった。駅前を5つのゾーンに分け、6つの駅とバス乗り場をまとめて1つの大きな駅とする「えき≈まち空間」の核となる取組みである。道路は現在の10車線を6車線まで減らし、歩行者のための空間や憩いの場、広場スペースとして活用する予定だ。大がかりな計画のため時間はかかるが、2029年ごろに第1段階の完成を目指している。実現すれば、駅前は多くの人々が集まり交流する場所になるだろう。
高さ約160m、地上32階のJR三ノ宮新駅ビル
JR三ノ宮駅では、JR西日本が中心となり駅ビルの建て替え事業が進められている。これまであった三宮ターミナルビルは1981年に開業した地上11階建てのビルで、ホテルや商業施設「三宮オーパ」、レストランなどが入っていた。現在既に取り壊されており、そこに高さ約160m、地下2階、地上32階建ての複合商業ビルが計画されている。
地下1階~地上10階は商業施設(約1万9,000m2)、12階~17階はオフィス(約6,000m2)が、18階~30階はホテル(客室数約250室)、31階はレストランという構成になっている。また、3階部分は隣接の商業ビル「ミント神戸」に接続する面積約2,500m2の広場(駅前広場上空デッキ))が整備され、待合空間やイベントスペースとしても利用できるようになる予定だ。完成すれば、三ノ宮駅のランドマークとなり街の印象が大きく変わることになるだろう。2029年度の開業が待ち遠しい。
西日本最大級のバスターミナル施設が誕生。雲井通5丁目地区開発事業
三ノ宮駅周辺は6ヶ所に分散したバス乗り場から1日当たり1,700便の、中・長距離バスが発着している。乗り場が分散しているためわかりづらく、一部の交差点にバスが集中して慢性的な渋滞が発生するなどの課題があった。そこで、分散する乗降場を集約する西日本最大級の新たなバスターミナルの整備が進められている。高さ163m、地下3階、地上32階の雲井通5丁目地区開発事業である。1階がバス乗降場、2階~3階がチケット売り場と待合空間や商業施設になるほか、4階~8階にホール機能、9階~10階に図書館を備え、11階~22階がオフィス、24階~32階がホテル「EVOL HOTEL KOBE(仮称)」という構成だ。2027年度完成予定で、現在工事が進んでいる。多くの人が集まる拠点となり、街の活性化につながる重要な場所となるだろう。
三宮クロススクエアにより「えき≈まち空間」として駅周辺が一体化していくが、新しくできるバスターミナルと阪急神戸三宮駅の間をデッキで結ぶ計画もある。人とバスの動線が立体的に分離されることで、歩行者の回遊性の向上につながる。メインデッキには屋根も計画されているので、雨の日でも濡れずに移動でき快適である。ミント神戸~新バスターミナル側のデッキ(新バスターミナル周辺デッキ)については、バスターミナルと合わせて2027年度ごろの完成予定。ミント神戸~交通センタービル側のデッキ(JR新駅ビル周辺デッキ)については、JR新駅ビルと合わせて2029年度ごろの完成予定となっている。
高さ125m、24階建ての神戸市役所本庁舎2号館
神戸市役所本庁舎2号館は、建築から60年以上経過していることから、現在再整備に向けて解体されている。跡地には、高さ約125m、地上24階、地下2階の複合ビルが計画されている(2029年開業予定)。行政機能は地下1階~地上5階に、地下1階~地上2階が商業施設、6階~14階がオフィス、16階~24階がホテルという構成だ。また、フラワーロード(税関線)と東町線、地下通路を東西通路でつないで回遊性を向上させる計画になっている。JR三ノ宮駅から少し離れているが、ここにも街のにぎわいを生み出す施設が計画されている。
再整備された都心のオアシス「東遊園地」
都心の貴重な緑のスペースであり、「神戸ルミナリエ」の会場として利用されてきた東遊園地は、2023年4月に北側エリアとにぎわい拠点施設「URBANPICNIC」の整備が完了し、リニューアルオープンしている。
「北側エリア」は、大小2ヶ所の芝生ひろばで構成されており、緑豊かな憩いの空間となっている。「URBANPICNIC」には、カフェレストランや屋外図書館、レンタルスペースなどがつくられ、食事を楽しんだりイベントに使われたりしている。また、「みちひろば」はフラワーロードと一体となったメタセコイア並木を生かした木陰の広場で、ベンチなどが設置され、小規模イベントやマーケットの場としても活用可能。そして「見晴らしひろば」は地形の高低差を生かして、芝生広場に向けた見晴らしのよいテラスになっている。カウンターテーブルやベンチが配置されているので、ランチやお茶を楽しんだりするのに適していそうだ。そして、「Living Nature Kobe」の取組みとして、神戸の自然を感じることができるガーデンが2ヶ所設置されている。このように多種多様な楽しみ方ができる空間がいくつも用意されており、世代を問わず楽しむことができる。
また、南側エリアには2022年3月に建築家の安藤忠雄氏が寄付した「こども本の森神戸」が開館している。高層ビルへの建て替えが進む都心において、この広々とした緑の憩いの場はとても貴重である。ここもまた、多くの人が集まるにぎわいの場になるだろう。
ウォーターフロントエリアの開発
アクアリウム「atoa(アトア)」をはじめとする3つの施設が一緒になった複合施設「神戸ポートミュージアム」が2021年10月に開業するなど、神戸の開発は、ウォーターフロントエリアでも進んでいる。特に、2022年4月に「都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域を定める政令の一部を改正する政令」について閣議決定され、同年5月に「神戸都心・臨海地域」として都市再生緊急整備地域が拡大されたことで、開発がさらに加速している。
2022年12月、神戸市は、ハーバーランドからHAT神戸に至るウォーターフロントエリアを対象に、今後10年間にわたって取り組む開発施策の方向性を示す「ウォーターフロントビジョン」を公表。「新港突堤西地区 水辺空間」「新港突堤西地区 都市空間」「中突堤周辺地区」「京橋地区」「夜景景観」の5つのコンセプトゾーンとテーマに分けられ、整備が進められている。
例えば、新港第2突堤では、2024年に1万人収容可能な大規模多目的アリーナ「神戸アリーナ(仮称)」が開業予定。また、メリケンパークや神戸海洋博物館のリニューアルに取り組んできた中突堤周辺地区では、神戸ポートタワーのリニューアル工事が進んでいる。完成すれば新しく展望歩道路が設置され、神戸の景色が360度見渡せるようになるそうだ。
このようなウォーターフロントエリアの開発は、さらに神戸の街を活気づけることになるだろう。
紹介した三宮再整備の各計画を見ると、わくわくしてくるのではないだろうか。まだ姿が見えないものも多いのでイメージが湧きにくいかもしれないが、三宮周辺を中心とするさまざまな再開発計画が完成すると、100mを超える超高層ビルがいくつも姿を見せ、多くの人が集まり、にぎわう空間が生まれる。
これからの10年で神戸の街は大きく変貌していくことだろう。大阪、神戸、京都の3都市のコラボレーションがさらに強化され、関西の活性化につながるとも考えられる。ぜひ、三宮の再整備の動向に注目してほしい。