神戸市立神戸アイセンター病院などの研究チームは16日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から目の網膜で明るさや色を感知する視細胞のシートを作り、網膜色素変性症という目の難病の患者に移植する世界初の手術を臨床研究として実施したと発表した。手術は関西地方に住む60代女性に実施し、合併症もなく約2時間で終了、成功した。
今後は安全性のほか、物を見る機能が変化するかどうかを評価する。執刀した栗本康夫(くりもと・やすお)院長は「ほっとした。小さな一歩だが無事に踏み出せた。患者さんは不安もあって当然。勇気に感謝したい」と語った。女性は「自分と同じく治療を待つ人の希望になればうれしい」と話したという。
視野が狭くなったり、視力が低下したりしていき、失明することもある病気で、国内の患者は3万人前後とみられる。今回は安全性の確認が主な目的のため、劇的な視力回復は見込んでいないが、チームは経過を詳細に分析し、今後の治療開発につなげる考えだ。
研究では、京都大で備蓄しているiPS細胞を培養し、立体的な網膜の組織を作製。そこから視細胞を含んだ直径1ミリ、厚さ0・2ミリほどのシートを作り、今月上旬に3枚を右目の網膜に移植した。体調は安定しており近く退院できる見込み。
今後は1年間にわたって免疫反応や細胞の異常増殖がないかなど安全性を確認する。手術の半年後からは、物を見る機能に変化があるかどうかも評価する予定。女性は手術前、かなり症状が進んでおり、明暗が分かる程度の状態だった。
研究には患者2人が参加予定。もう1人の手術時期は未定だが、年度内に終えたい考え。
iPS細胞の臨床応用は2014年、理化学研究所などのチームが世界で初めて、同じ網膜に対して実施。この時は、視細胞を支えている網膜色素上皮細胞を作製してシートにし、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性という病気の患者に移植した。
目の網膜組織に含まれ、色や明るさを感知して電気信号に変換する「視細胞」が失われていき、視野が狭くなったり、視力が低下したりする病気。カメラで言えば、レンズを通過してきた光を受け取るセンサーの不具合に相当する。緑内障や糖尿病網膜症と並ぶ成人の視覚障害の主な原因で、遺伝子の変異により起きるとされている。暗い場所で目が慣れやすいようにする薬や、血流を良くする薬を飲むなどの対症療法はあるが、根本的な治療法はない。