2020年5月1日金曜日

臨床ニュース

シリーズ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報 

防衛医大のCOVID-19重症例の治療経過

第94回日本感染症学会「COVID-19 シンポジウム」
 

第94回学術講演会特別シンポジウム
YouTubeライブ配信画面
 日本感染症学会は4月18日、東京都で第94回学術講演会特別シンポジウムをインターネットでライブ配信した。新型コロナウイルス感染症COVID-19)の診断・治療・感染制御について、国内外の知見が集積しつつある。特徴的なCT所見、検査所見、議論が続く重症肺炎へのステロイド全身投与の最新情報を、防衛医科大学校感染症・呼吸器内科教授の川名明彦氏が解説した。(m3.com編集部:坂口恵)
非常に特徴的な「crazy paving pattern」
中国・武漢市で流行が始まったばかりの2020年1月頃には、明らかになっていなかったCOVID-19の臨床像だが、「徐々に分かってきた」と川名氏。その一つが「crazy paving pattern」と呼ばれる特徴的なCT画像で、「正常な部分とすりガラス陰影の部分がはっきり分かれたモザイク状態で、陰影の中に血管影や肺胞隔壁が透見でき、“メロンの皮”のように見える」と説明した。
 COVID-19の初期症状として発熱倦怠感、乾性咳嗽が多く見られることが分かってきているが、予後と関連する検査所見も報告され始めている。川名氏は、中国・武漢大学中南医院単施設のCOVID-19患者を対象とした、小規模後ろ向きケースシリーズ研究(JAMA 2020 Feb 7; e201585)を紹介。重篤化し死亡した症例(5例)では、非重篤例(28例)に比べ白血球数の上昇、好中球の増加、リンパ球数の減少、D-ダイマーの上昇の他、BUN(尿素窒素)やクレアチニンの上昇が見られたことなどが、診療上の参考になる可能性があるとした。
全身ステロイド、ARDS進展例で死亡率低下のデータも
治療については、現時点で有効性と安全性が確立した薬剤はなく、既存薬からCOVID-19に有効性が期待できる候補薬の観察研究や臨床試験が始まったところだ(「大曲氏が解説、今後のCOVID-19治療の方向性」参照)。
 COVID-19の重症肺炎に対する全身性ステロイドについて、一部の指針では「原則禁忌」とされるなど、議論が続いている。川名氏は、自験例の一部でメチルプレドニゾロン(mPSL)の全身投与を行うこともあると紹介。その根拠となっているのが、中国・武漢市金銀潭医院のCOVID-19入院患者が対象の、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発症と死亡要因を検討した後ろ向きコホート研究(JAMA Intern Med 2020 Mar 13; e200994)。COVID-19肺炎からARDSを発症した患者84人のうち、mPSL全身投与を行った群の死亡率が、行わなかった群に比べ低かった(46% vs. 61.8 %)。さらに、mPSL群の肺炎重症度(pneumonia severity index: PSI)は非実施群より高かった。「mPSLが、ARDSを発症したCOVID-19肺炎に対して有効性があったのではないかと考えられる」(川名氏)
初期には併用療法を考慮
川名氏は5例の自験例(うち死亡2例)を提示。いずれも明らかな肺炎症状を起こし、紹介入院となったケースに対し、入院時の初期治療としてシクレソニドファビピラビル、場合によってはナファモスタット(いずれもCOVID-19に対する適応外使用)を投与していることを示した。
 この中には、シクレソニドやファビピラビル開始後も肺炎の悪化が見られたために、mPSLのパルス療法やプレドニゾロン内服を含む全身投与を追加した2例が含まれ、いずれも症状の改善が得られたという。ただし、1例では「ステロイド全身投与後、肺炎症状が改善した一方、PCR陽性が1カ月続いた(写真)」と川名氏。「これがステロイド全身投与のせいかは分からないが、ウイルスのクリアランスが延びる可能性もあるのかという印象を持った」と話した。
写真. 肺炎症状悪化でmPSLパルスを併用した40歳代男性の胸部CT画像
(提供:川名明彦氏)
「もっと早く開始していれば予後が変わったかも」
現時点で、海外の最新の文献などを基にCOVID-19治療候補薬を複数組み合わせて治療を進めているが、「これまでの個人的な印象としては、特定の薬が著効している感じはない」と川名氏。一方、「紹介されてくる段階で、既に強い肺炎を起こしている患者が多く、(候補薬の)投与タイミングが重要。つまり、もっと早く投与を開始していれば予後が変わったかもしれない、という思いもある。治験の結果が待たれる」との見解を示した。
川名氏との一問一答「無症状者へのスクリーニング目的のCTは不適切」
――講演の最後に、司会の三鴨廣繁先生(愛知医科大学感染症科教授)から「臨床現場でCOVID-19の鑑別におけるCT検査の位置付けをどう考えるか」との質問がありました。改めて、現時点でのCT検査を考慮するタイミングや適応について、ご意見をお願いします。
 本疾患は、CT画像が特徴的です。COVID-19確定例ではCTを撮影することで肺炎の早期診断につながる可能性があります。医師の判断で、CTは柔軟に撮影する必要があると思います。ただし、無症状患者に対し、確定診断前にスクリーニング目的で(例えばPCR検査の代わりに)CTを撮影するのは過剰ですし、誤診のもとになると考えます。
――先生の施設ではCOVID-19の重症肺炎に対し、適応を考慮の上、ステロイド全身投与も行っているとのことです。COVID-19肺炎におけるステロイド全身投与については、議論があるようですが、現時点での考え方をお聞かせください。
 COVID-19に対するステロイドの全身投与には否定的な見解も多いのですが、明確に有効な治療薬が存在しない本疾患において、急速に肺炎が悪化する場合は臨床的判断で使用せざるを得ない場合もあると考えます。投与の基準は明らかなものはなく、そのタイミングとともに今後の検討が待たれます。
――講演の終わりでは、医療機関での感染対策として「既に通常の医療が維持できなくなっていることを反映したガイダンス」として、米疾病管理センター(CDC)の指針を参考情報として紹介されていました。現時点で、日本でも個人防護具(PPE)の不足に伴う再利用が容認されている状況では、現実的ということでしょうか。こうした非常時の措置が平常化するのに、必要なこと、あるいは終息はいつ頃になるとお考えでしょうか。
 マスクの節約やN95マスクの再利用などは、既に日本でも検討(実施)されていることと思います。PPEなしで診療するよりも、(必要に応じ滅菌消毒などを施した後で)PPEを再利用することは現実的な判断だと考えます。何より防護具の供給を増やすことが重要ですが、現場ではベターな方法を考えざるを得ません。終息がいつになるかは不明です。